二次創作SS『魔法少女リリカルなのは ~定められし運命~』
<第9話 もう一つの戦い>
翌日。
智哉さんは友達同士で野球に参加。
現在、グラウンドで準備体操をした後、軽くキャッチボールをしています。
昨日聞いた話だと、智哉さんはピッチャーをやるとの事です。
キャッチボールの相手はキャッチャーさんでしょう。
智哉さんの持っているグローブよりも大きいのをつけている為です。
暫く続いたキャッチボールを終えて、キャッチャーさんに寄って行き、何かを話し合っています。
「母さん、智哉さんは何をしているんですか?」
「あれは多分、サインの交換でしょうね。」
なるほど。
グローブを口元に当てて、周りに聞こえないようにしている様子から見ても、間違いは無さそうでした。
会話を終えた智哉さんは、私の方にわざわざ駆け寄って来てくれて、
「これから試合が始まるから、行って来るね。」
そう言ってくれました。
だから私も、
「はい!智哉さん、頑張ってくださいね!」
たったの二言でしたが、智哉さんにエールを送りました。
「プレイボール!」
審判さんでしょう。
片手を大きく掲げながら大声で試合開始の合図をします。
智哉さんがマウンドに立っている所を見ると、後攻のようです。
左足を軽く後ろへひいた後、両腕を大きく振りかぶって、グローブを頭上へ通過させ、呼吸を整える智哉さん。
全体重を振り上げた左足に乗せて、一気に地面を踏み付けます。
下半身に踏ん張りを利かせた状態を保ち、上半身を添えるかの様な違和感の無い動き。
最後の腕の振りは圧巻でした。
それこそ、ブンッと音が鳴っても不思議では無い程の右腕の撓りとスピードだったのです。
その一連の動きから放たれた白球はキャッチャーさんのミットに寸分の狂いも無く、まるで吸い込まれるように収まりました。
ズドオオオォォォォォオオオン!!!
と言う轟音と共に、グラウンドに居た者全ての声を奪い去るのでした。
「………と……智哉さん……す、凄いです!!」
「……私、知り合いであんな球を投げる人が存在するとは思ってなかった………」
「え……えっと…………智哉さんって………プロ野球選手だったっけ??」
「正直言って、直接人が投げた生の剛速球を見れるなんて思わなかったよ!」
私は勿論、エイミィもなのはもユーノも驚きを隠せません。
「………」
アルフに至っては開いた口が塞がらないみたい。
皆揃って自分達の顔を見合わせていると、遠くから轟音が何回も響き渡り、気が付けば智哉さんはベンチへ下がっていました。
「智哉、絶好調だな!」
「この調子で頼むぜ!」
「神崎、優勝狙って行こうぜ!!」
チームメイト全員が智哉さんを囃し立てています。
でもそこはやっぱり智哉さん。
幾ら囃し立てられても図に乗らず、緊張感のある顔付きを保ったままでした。
智哉さんのチームの攻撃に移りました。
初めのバッターは、慎重に相手のピッチャーさんを見極めつつ、ヒットを放ち、2番バッターさんは堅実なバントを決めて、3番の智哉さんに回します。
「智哉さん、ホームラン打ってくださあぁぁあい!!」
ついつい大きな声で叫んでしまいました。
私の声の大きさに智哉さんはこちらを一瞬向いてくれましたが、苦笑いしていたみたいです。
智哉さんだけでなく、チームメイトの皆さんも私の方に顔を向けてきたのに気付いて、恥ずかしくなり俯いてしまいました。
智哉さんはピッチャーさんの方に向き直り、キリッとした表情に早変わり。
第一投目を見送ってボール、第二投目は振りかけたバットを止めましたがストライクコール、第三投目をまた見送りストライクコール。
相手ピッチャーさんの様子を窺っている智哉さん。
その目は宛ら戦闘中、相手の実力を窺っている時の目でした。
来たる四球目。
智哉さんのバットは迷い等微塵も無くボールに真っ向から衝突したのです。
その見事な振り抜きは、ラグナロクを真横に振り抜く様を見ているかのようでした。
バットに当たったボールは一直線にフェンスを越えたのです。
盛大な歓声と共に、グラウンドのダイヤモンドを駆ける智哉さん。
ホームを踏むと同時に、審判さんの声が高々と響きます。
「ゲームセット!!」
そう、この球技大会のルールは準決勝戦、決勝戦以外は一回からのサヨナラ形式だったんです。
その瞬間、智哉さんのチームは二回戦への進出が決定しました。
その後、智哉さんが所属するチームは、順当に駒を進め、遂に決勝戦。
准決勝戦は四回まで、決勝戦は五回までで、それぞれ延長に入るとサヨナラ方式となっています。
「…今まであっさり勝って来たんだから、今回も余裕なんじゃないのかい?」
アルフはどうでも良さそうに言います。
「アルフ、そんな事言わないの。」
アルフの態度に少し叱責。
私に叱られた当人は、しょぼんとして俯いてしまいますが、仕方ありませんよね。
そうこうしている内に、試合が始まりました。
どうやら先攻は智哉さんのチームみたいです。
先頭バッターさんは相手ピッチャーさんの球に掠るのが精一杯で三振となってしまいました。
次のバッターさんも引っ掛けてしまい内野ゴロに。
智哉さんに打順が回って来ました。
相手ピッチャーさんも決勝に上ってくるだけあってか、智哉さんのチームメイトも攻めあぐねている様子。
智哉さんはこの打席、粘って粘って最後は見逃し三振でした。
けれど、三振と引き換えに相手ピッチャーの何かを少しでも掴んだみたいで、ベンチへ戻ってからチームメイトと会話をしています。
今度は智哉さんがマウンドへ。
相手バッターは智哉さんの球に対して、空を切るだけ。
あっと言う間に攻撃を終わらせてしまいました。
そんな攻防が続き、現在五回表。
両チームヒットは愚か、ランナーも出ておらず、均衡状態でした。
この回、智哉さんのチームは四番から。
一点でも取れれば智哉さんが抑えてくれるでしょう。
チームメイトからの声援や応援席からの声援の甲斐があったのでしょう、ツーベースヒットを放ったのです。
それを切っ掛けに、バント、犠牲フライと続いて待望の一点が入ったのです。
その裏、智哉さんはきっちり打ち取って試合終了。
私はその場を駆け出し、智哉さんの下へ、チームメイトさん達が見ているのにもかかわらず、
「智哉さん!優勝おめでとうございます!!」
そう言いながら思わず胸に飛び付いてしまいました。
「…こ、こらフェイト。…ハハ、ありがとう。」
智哉さんは周りを見渡し、多少困った顔をしながらも普段通りに私の頭を優しく撫でてくれたんです。
「…えへへ。ん~、智哉さんの汗の匂いだぁぁ。」
頭を撫でられる心地良い感覚に浸りながら、胸に顔を押し当てて匂いを嗅ぐ私。
そんな私の行動を見てからかは判りませんが、
「……おい、智哉。誰だよ、この金髪でツインテールの少女は。しかも小学生じゃないのか!?」
「…お前にこんな可愛い妹が居たか?お前の家に何回も行ってるが一度も会った事無いんだがな!?」
「どういう事か説明して貰おうか、『ロリコン』。」
智哉さんが質問攻めに遭っています。
「分かった、分かった。話すからもう少し待てって。これから来る本命との試合が残ってるんだ。変な雑念が入っていたら勝てないだろ。」
周りを制する一言。
あれ?
これからが本命って?
「智哉さん、優勝して終わりじゃないんですか?」
智哉さんからは離れず、くっ付いたまま疑問を投げ掛けると、
「…そう。今から出てくるのがオレ達の戦いたかった相手さ。……ほら、来た。」
遠くを鋭い目で睨み付けながら話してくれました。
その時、ギイィィイイと音を立てて大きな扉が開くと、そこにはユニフォームを着た人達が。
「…あの人達……もしかして、野球部員ですか?」
こくんと頷き、
「彼らと戦うためにここまで来たんだ。夏の大会ではボロボロにされてね。今日再び、リベンジってわけさ。ちなみに、今野球に出場してる者は多分全員元野球部って言っても過言じゃないね。そこから選ばれた連中が今あそこに立ってる訳さ。この大学の野球部は相当強いんだ。入部するのに試験もあるみたいだしね。…まあ、オレは受けなかったんだけど。」
ハハ、と笑いながら語る智哉さん。
「そうだ。フェイト、折角マウンドまで来てくれたんだから、ベンチに居ると良いよ。フェイトが間近で応援してくれたらもの凄く嬉しいんだけどな。」
たった今思いついたといった具合に、智哉さんは突然話をコロリと変えて続けます。
「…ぇと、その、智哉さんが宜しければ。…あ、でも、チームの皆さんの許可も必要なんじゃ……。」
智哉さんの提案に頷くのにはかなりの勇気が必要だったため、頷いた時の私の顔は多分真っ赤に染まっていたと思えるくらい恥ずかしかったんです。
ですが、智哉さんが良くても他の皆さんもベンチに座る訳ですから、そこはキチンと了解を貰っておかないといけません。
「…だとさ、別段構わないだろ?」
ニコニコしながらチームの方々に了解を得ようとする智哉さんでした。
けれど、私にはチームメイトさん達の様子が何か変に感じられたんですが、気のせいでしょうか。
智哉さんからは特に変わったところは感じられず、何時もの様子みたいでしたし…。
そんな事を考えている内に、
「……あ、ああ!わ、分かった、全然俺達は構わないよ!な!?」
チームメイトさんのお一人から皆さんに確認を取ると、その場に居た全員が頷いてくれたので、オーケーを貰う事が出来ました。
でも、何だか同意を求めた方の声が上擦ってたような……。
それに、周りの方々も何か反論や異議を言う事を拒絶するかのようにブンブンと首を縦に何回も振っていたような気がするんです。
(……まぁ、良いかな。兎に角、これでまた智哉さんと一緒に居られるんだ。それに、すぐ傍で応援する事も出来るし。)
こうして、私は球技大会の最後の試合を間近で観戦と、智哉さんへの応援をする事が可能になりました。
「……おやおや、誰かと思えば野球部『だった』洋平君じゃないか。」
反対側のベンチに戻った筈の野球部の一人がオレ達に気付き、こちらに近づきながら話し掛けて来た。
「……てめぇ、一体何しに来やがった?」
そう話した洋平は、怒りを無理矢理押し込めようと堪えている時の低く震えるような声だった。
「何しに来やがったとは物騒な物言いだな。むしろそれは僕の台詞なのだが。何故君が、いや、君達が聖地とも呼ばれるマウンドに足を踏み入れているんだい?…ああ、もしや今季の優勝チームが君達だからだね?」
なるほど、とでも言いたげな表情でオレ達を見下しているかのような目つきだった。
「ああ、そうさ!!オレ達はてめぇら糞野球部を敢えててめぇらの有利な野球で完膚無きまでにブッ潰すため、ここまで来たんだよ!!!」
オレやフェイト、チームメイト達の傍で、今にも殴り掛かってもおかしくない状態の洋平は、思いっ切り叫んだ。
洋平の傍にいたチームメイトは両手で耳を塞ぎ、フェイトに至っては、目の前で繰り広げられている光景を目の当たりにし怯えてしまったようで、オレの後ろに隠れてユニフォームを掴んで離れなかった。
「……もう良い、洋平、落ち着け。……試合中は手加減など必要無い、とだけ忠告させて貰おう。」
それだけ伝えてオレはフェイトの肩を抱き寄せマウンドからベンチに戻ろうとした。
「それよりも何よりも神崎君。先程からずっと君のユニフォームを掴んで離れようとしないそこの可愛らしい少女は誰だい?君の妹か?」
ベンチの方に歩き出したその時、洋平が怒りを露にしていた相手、朝倉悠一がオレに声を掛けて来た。
「………」
だが、オレには何も答える義務は無いのでスルーする。
「…いや、妹にしては似て無さ過ぎるな。…なら、血は繋がってないとか?」
オレがスルーした事で質問の答えはノーと捉えたのか、自ら答えを導き出そうとし始め、また問い掛けて来たのだ。
「……」
「…おいおい、それならもう少し離しておかないと色々と面倒な事になるのだよ?」
その問い掛けにも別段答える必要も無かったために、オレはもう一度スルーすると、それもノーと捉えたのだろう、何を想像しているのかが検討づくような事を話す。
「…」
「………今ふと思ってしまったのだが、まさか君達は恋人関係か?」
オレがずっと黙って様子を窺っていると、オレとフェイトが恋人同士であるという正解に一人で辿り着いてしまった。
「……それがどうした?構わないよ、『ロリコン』と呼んで貰ってもオレは。その『ロリコン』にお前達『現役』野球部は敗北するのだからな。」
だがオレはそんな事は気にせず、勝ち誇ったような笑みで言いながらベンチへと戻る。
それを見たチームメイトも洋平を引っ張って戻って来た。
「………よくも僕を、野球部一年にしてエースであるこの僕を『ロリコン』な屑の分際で侮辱したなぁぁぁあああ!!!」
オレ達のチームがベンチに戻り、一人マウンドで雄叫びを上げているエース。
「……良いだろう。我々が力の差を思い知らせてやろう。後で手加減してくれと泣き喚いても遅いからな…。」
熱が冷めたのかは判らないが(まあ、全く冷めていないだろう)、声の質を下げて威圧してくる。
「……智哉さん」
「ん?どうした、フェイト?」
フェイトをオレの隣に座らせて朝倉の雄叫びを聞いていると、フェイトは暗い顔でオレに離し掛けて来た。
「……その、本当に良かったんですか?私と付き合ったりなんかして。智哉さんが私の所為で悪く言われるのいy…きゃっ!」
フェイトには悪いがその先は未来永劫言わせるつもりは無いので、ヒョイと持ち上げてオレの膝の上に座らせ、背中から両腕を回して思いっ切り抱き締めた。
ついでと言ってはあれだが、昨日のように頭に顔を埋めて匂いを嗅いでやった。
「んん~、フェイトの匂いは何時嗅いでも良い匂いだね~。」
「…んぁあ、と…智哉さ……んぅぅ、ああぁ…。」
ビクビクしてるのが抱き締めてるから丸分かりだった。
「二度と今みたいな事を言っちゃダメだ。オレの気持ちまで否定されてるみたいでそれこそオレは嫌だ。次、いや、今後だな、フェイトがそんな事言うようだったらお仕置きだからな~。」
フェイトの耳元で囁くと、フェイトはオレの腕の中で全身の力が抜け切ったように頭をオレの胸に預け、だらんとなった。
「……ヤツだけは、……朝倉悠一だけは絶対ブッ潰す!!」
少し離れたところで、拳をギリギリと音が鳴りそうな程に強く握り締めながら洋平は呟く。
「試合で完膚無きまでに叩きのめすんだろ?お前は忍耐力ってもんが足りてない、もう少し待て。……あ~、あとな、乱闘やら故意だと判断されるような妨害や行動をした時には、オレが直々に手を下すからな。お前一人でも抜けられると人数が八人になって試合がパーになり兼ねない。その辺を理解した上で殺るなら殺れ。」
怒りをベンチでも溢れさせている洋平をオレは物静かに、だがハッキリ耳に残るような声で忠告した。
「両チーム整列!」
主審の掛け声と共にオレ達は並んだ。
「礼!!」
「「お願いしまああぁぁぁぁああす!!!」」
さすがは野球部と言った所か。
主審の礼と言う合図でもの凄い大声がオレ達の耳に、そしてグラウンド中に響き渡った。
誰一人として手を抜かない所は、やはり強豪校と言った所だろう。
コイントスの結果、先攻は向こう。
オレ達は直ぐに試合開始と言うことなので、そのままグラウンドへ。
軽く投げ終わり、主審の声が掛かる。
「プレイボール!!!」
「…ふん、ピッチャーは神聖なマウンドで幼女とイチャついていた貴様か。」
「……何とでも、言え。」
大きく振りかぶり、全体重を左足に乗せ踏ん張りを利かせた下半身を使って上半身を捻る。
その捻りから生まれた力全てを右腕に溜め、鞭のように撓らせる。
最後に手首を捻り指先に掛かるボールに全身で生み出した力、エネルギーを乗せて放つ。
スウウウゥゥゥゥゥゥゥウウウウウ………
放たれたボールは弾丸の如き回転をしながらキャッチャーの構えるミットに一直線、そして……
ズドオオオォォォォォオオオン!!!
「………な!?」
「ストラアアァァァァイク!」
轟音がマウンドに鳴り響いた。
今放ったボールは今までとは明らかに何かが違った。
力が篭る。
想いが伝わる。
そして、それら全てがボールに注がれる。
「……く、くっそおおぉぉおお!」
ブン、ブンと空を切る。
次の打者のバットも同じように空を切った。
「……なるほどな。僕達を倒そうなんて馬鹿な事を考えるような理由としては十分か。うちの1,2番が呆気無く三振する所は久し振りに見た気がするしな。」
そうオレに言いながら、朝倉がバッターボックスに入った。
「まあ、気にするな。まだ試合は始まったばかりだ。」
オレは振りかぶり第一投目。
ズドオオオォォォォォオオオン!!!
朝倉は様子見なのか、踏み込む事無く見逃した。
(…ふむ、初球は慎重になるタイプなのか?)
そんな事を考えながら第二投目、少々インコースよりの低めに投げるが、やはり手を出さない。
勿論、主審のコールはストライク。
オレは余り長い間を置くのを好むタイプでは無いため、テンポ良く第三投目を今度はインコース高めに抛る。
最後までこの打席は手を出さなかった。
アウトのコールと共にチェンジのコールが掛かったので、オレ達はベンチへ戻った。
「智哉さん、お疲れ様です。はい、タオルです。」
「…お?準備が良いね、フェイト。ありがとう、使わせて貰うよ。」
フェイトからタオルを受け取って顔を拭く。
「……ところで聖。朝倉だが、お前はどう思う?」
タオルを首に提げて、キャッチャーである二ノ宮聖の考えを尋ねた。
「…今の打席だけではやはり、判断出来ないだろう。だが、少なからず今の調子を保てれば、奴らもバットに当てるだけで二、三打席は必要だろうな。」
オレと聖でマウンドで軽くピッチングをしている朝倉を見ながら意図を模索していると、洋平が朝倉を初回から叩きのめすと叫んで、バッターボックスへ向かって行った。
朝倉の投じた二球を見送り、カウントはワンストライクワンボール。
そこから二球続けてバットに当てただけのファールの後、最後はファールチップで三振となった。
ヘルメットを地面に叩きつけてベンチにドカッと座った洋平に、
「朝倉の球筋はどうだった?」
「あぁ!?……ぁ、あぁ。最初に投げられた球は別段普通のストレートと変化球だった。けど、、バットに当てた時の球は確かにストレートの筈だったんだが、何故か芯から外れてるんだ。それも結構な。」
オレが睨んだからか、態度を一変させて質問に答える洋平。
その洋平の感想に対してオレは一つの答えを導き出す。
「……多分ファストボール系だな。少なくとも朝倉はファストボールをストレートや変化球と混ぜて投げてくるピッチャーだって事は判った。」
「…?智哉さん、どういう事ですか?」
頭に?マークを沢山浮かべているフェイトがオレに質問してくる。
「そうだね、簡単に言おうか。ストレートはどういう球かは分かるよね?」
「…智哉さん、私をb…」
フェイトがムーッと頬を膨らませて猛抗議しようとしたために、オレはゴメンゴメンとフェイトの頭を撫でながら話を続ける。
「洋平が言ってたよね?ストレートを打った筈なのに、打球が強く前に飛ぶどころか後ろに行ってしまったって。朝倉が投げた球はバットに当たる前までは洋平の思った通りのストレートだったんだけど、実は変化球だったんだ。バットに当たる直前で変化したから洋平は前に打てなかったって訳なんだ。」
フェイトはなるほど、と言った顔して納得したみたいだ。
「…でも、それじゃ打つのは難しいんじゃ……?」
フェイトが心配そうに聞いてくるので、オレは別段そこまで気にする必要は無いと言って、安心させた。
バッターボックスに入っていた聖が戻って来た。
「……どうだった?」
「十球程度粘って変化球を色々投げさせたが、まだやはり決め球らしきものは温存している様子だったな。」
「…まあ、まだ一回が終わったばかりだからな、オレも最初の打席は様子見で行く予定だ。それよりもこの回も三人で終わらせる事が重要だ。……よし、フェイト、行って来るね。」
フェイトの頑張ってくださいと言う可愛い声援を背に受けてオレはマウンドへ。
(四番からか。どう出てくる?)
頭で色々考えたが、雑念が入れば投球に影響が出るため、オレは無にして第一投目を投げた。
(……低いな。)
しかし、オレの投じたボールは浮き上がったかのように少し上に構えていたキャッチャーミットに吸い込まれた。
主審のコールはストライク。
(……な!?…チッ、相当伸びてくるな、この球。)
相手打者の顔が引き攣ったのが見えた。
第二投目はアウトコース高めへ。
相手打者はボールの下を思いっ切り空振りした。
(スイングスピードは流石四番と言ったところか。あれに当たったら球が軽いと芯を外してもスタンドじゃないか?)
「……ま、当たらなければ全く問題は無いんだが!!!」
ズドオオオォォォォォオオオン!!!
第三投目はど真ん中に投げ、予想外だったのか相手は手が出なかった。
後ろの五番、六番もスイングは豪快で見ていて気持ち良かったが、まるで当たらず三振に仕留めてベンチへ戻った。
「とりあえず、様子見で行って来る。まあ、もし打てそうだったらヒットじゃなくホームランだな。ヒットで出塁してもまだ朝倉のピッチングを生で見ていない後ろがいきなり打てる保障は無いからな。」
そう言いながらバットをケースから持ち上げ、ヘルメットをかぶる。
オレは打席に立ち、
「…さぁて、いきますか~。」
打つ気は余り無いんで、という意思をやる気が感じられない声で朝倉の方を向いて言った。
オレの言葉に対して、朝倉は無反応で一球目を投げて来た。
(ストレートか?まあ、取り敢えず……)
カンッとバットに擦らせてファール。
手元で変化した今の球はカットボールだろう。
だが、オレは元からヒットを打つ気は全く無いため、気にする必要は無かった。
ただ単にオレ自身、朝倉の持ち球を、球種を確認したいだけのカットだ。
フォーク、スローカーブ、シンカーと二球目、三球目、四球目は続き、オレはカットを続ける。
五球目は外角低めのカットボールで空振りを誘われ、一応バットを出す素振りを見せつつ見送った。
六球目からは左右に曲がる変化球を左右に投げ分けられながらも何とかカットを続けた結果、カウントはツーストライクスリーボールで十二球。
一進一退の攻防が続き、痺れを切らしたのは朝倉だった。
「ピッチャーでありながら四番も打てるヤツと戦うのは久々だ。それに、自分の体力を削ってまでカットを『わざと』続け、僕の持ち球を全て見ようとするその心意気を称えて、見せてやろう。現代の魔球の数々をな!!」
朝倉が振りかぶって放った球は、何故か止まって見えた。
(………おいおい、止まって見える球なんて在り得ないだろ!?)
確かに朝倉の腕は振り抜かれ、ボールが手から離れた。
だが、無情にも今オレが、オレの目が認識しているのは空中を漂っている、いや、本当に宙に浮いて止まっているようにしか見えない球だったのだ。
(……幻術を掛けられた訳でもない。なら、一体どうして!?)
頭が混乱していると、その時は訪れた。
先程まで宙に浮いて止まっていたボールが落下し始めたのだ。
(……何!?くそ、間に合え!)
バットを振るも時既に遅く、振られたバットは空しく空を切るだけだった……。
「……ふぅ、完全にやられたよ。」
ベンチに戻って誰かに向いた訳ではなく、その場に居た全員に話し掛ける。
「どうだった?朝倉は現代の魔球を見せるとか言ってたが。」
代表して聖が聞いて来た。
「……ああ、正直言って見事だったよ。ボールが宙に浮いて、止まっているように見えた。んで、落下し始めた頃にバットを振ったら見事に空振りだった。」
オレの言葉に、その場に居た全員が驚いていた。
無理も無いだろう。
何せ、ボールが止まって見えたと言うのだ。
それも宙に浮いて。
そんな状況を目の当たりにしたらと全員が想像したのだろう。
そんな中、オレの後ろのバッターも当てるので精一杯のようで、最後は三振。
だが、朝倉はオレ以外にはまだ本気は出さない様子だった。
そんな事を考えていても仕方ないのでオレはさっさとマウンドに上がる事にした。
「さあ、三回表だ。しっかり抑えよう!」
オレは全員に喝を入れ、自分も気合を入れ直した。
その後も両チーム全くヒットが出ずに回が進んで行き、七回表ツーアウト。
「……良くやったよ、君は。只一つのストレートで、いや、正確に言えば『ジャイロボール』只一つで僕達をこの回それもツーアウトまでパーフェクトに抑えるなんてね。それにこの僕に本気を出させたんだ。正直言って、君達全員に本気を出す事になるなど思ってもいなかったからね、賞賛に値するよ。誇ってくれて構わない。……だが遊びは、君達の優勝という夢物語はここまでだ。」
朝倉の目が変わったのが判る。
今までの人を見下した目ではなく、オレ達の実力を認めて全力でぶつかって来る事を決意した瞳だった。
「……ようやっと本気か。全く、ここまで粘られるとは思わなかった、さすが現役だ。……んじゃ、こっちも本気で行くからそのつもりで。」
オレも朝倉の決意に恥じぬよう、グラブを胸に当て、マウンドで精神統一。
いくぞ、という瞳を朝倉に向けると、朝倉も同じ瞳で来い、と返して来る。
オレはいつも以上に大きく振りかぶって全身を奮い立たせる。
今日の中で一番気合が、魂が篭った一投が放たれた。
「だから言っただろ!もうジャイロは通用しないと!!終わりだああぁぁぁあああ!!!」
雄叫びを上げながら、オレのボールに向かってバットを振り抜く朝倉。
それはオレの球を計算に入れた上での完璧なスイングだった。
朝倉は思っただろう、狂いは微塵も無いと、バットに当たれば確実にバックスクリーンへと一直線に飛んで行くだろうと。
そう、それが、オレの投じた球が『ただの』ジャイロボールだったならば。
ズドオオオオォォォォォォォォオオオオオン!!!!!
だが結果は無情にも朝倉のバットは空を切った。
「……ば、馬鹿な!?コース、高低さも完璧に読み、君のジャイロの軌道をも寸分の狂い無く合わせた筈なのに…!!」
「…悪いな。オレはジャイロを二種類分けて投げられるんだ。さっきまで投げていたのは、普通のジャイロ、『フォーシームジャイロ』と呼ばれるジャイロボールだ。そして、たった今放った球は『ツーシームジャイロ』と呼ばれるジャイロボールさ。フォーシームの時とはまた違った味が出て良いだろ?」
オレは今最高に気分が乗っている。
ここまで乗った球を抛ったのは何時以来だろうか?
自分の抛った球に、そして何より自分自身に酔いしれるとはこの事なのだろう、そう感じる事が出来る程に今のオレは違った。
「…このテンションが何時まで持つか判らないからな、さっさと行くz……」
「…すまんが、タイム。」
コテッという音が聞こえて来そうなこけ方だった。
「……お前なぁ~。…ってベンチまで戻るのかよ!」
思わず体が突っ込みのポーズを取ってしまった。
オレを無視してベンチに下がった朝倉の方を見ると、何やらバットケースらしき物を弄っていた。
暫くして、朝倉が今まで使っていた金属のバットでは無く、恐らく自分専用のバットなのだろう、木バットを抱えて戻って来た。
そしてバッターボックスに入る前に十回程素振りをし、主審にすみませんでした、と一言言ってから打席に立った。
「……これ以上の本気は無い。待たせて悪かったな。投球練習しても構わないし、何なら一球位くれてやっても構わないぞ?」
挑発している瞳には微塵も思えなかった。
そう、素で言わせているのだろう、実力が伴わなければあり得ない台詞だ。
「…いや、結構だよ。テンションが下がるどころかまだまだ上昇しそうで恐いくらいだ。……さて、無駄話もこれくらいにして、行くぜ!!」
テンションもあってか、先程のスピードよりも更に早く投げられたような気がした。
が………
カアアアァァァァァアアアアン!!!!
木のバットの独特な乾いた音、それは真芯に当てた時にしか鳴らないのだ、がグラウンドに木霊した。
「ファール!!」
レフトスタンド横ポールギリギリを白球は一直線に抜けて行った。
「……たった一球見ただけであそこまで持って行かれるとは思ってもいなかったぜ。流石一年でありながらエースの上にクリーンアップを担っているだけあるな。」
そう言いながら、今度はオレは振りかぶった後、上半身を限界まで後ろに捻った。
「…喰らえ!」
上半身の捻りを戻す力を生かして溜めた力を指先のボールに伝えて投げ放つ。
球の威力、スピード、伸び、全てにおいて今までとは次元が違った。
しかしその球は朝倉の胸元を一直線に目掛けて放たれてしまう。
「…な!?」
オレの限界に近いスピードだったため、咄嗟の動きでギリギリ回避するも、無情にもボールはバットの根元に当たって高くキャッチャーの真上に舞い上がってしまった。
「…良し、これでこの回は終わりd…」
落下点でミットを構え、万全な補給体制で待つ聖に、オレは、
「取るなあああぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
「……?!」
聖はオレのグラウンドに木霊する声に反応して、オレの方を反射的に向いた。
その結果、落下して来た白球はミットに収まる事無く地面に落ちた。
主審から新しいボールを受け取り、オレに寄って来る聖。
「……あれ程までに叫んでおいて決められなかった場合は、それなりの責任を取って貰うからな。」
オレにそれだけ伝え、ボールを渡すと黙って戻って行った。
「…ああ。」
短く、聞こえたかは判らなかったが、聖の想いにオレは感謝した。
「……済まなかったな、今のは久々にトルネードで投げたから感覚が戻りきっていなかった。」
「気にする必要は無い。久々なのなら尚更だ。だが、今のを取らせなかった事を後悔する事になるがな!!」
朝倉に暴投した事を謝るが、本当に気にしていないのがこちらを真っ直ぐ見ている瞳で容易に判る。
朝倉のその言葉に対してオレは、
「………喰らえええぇぇぇぇえええ!!!これがオレの全力全快だあああぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」
全身を、一つ一つの細胞の限界を搾り出すかのように指の先に掛かるボールへと全ての力を注ぎ込んで放った。
ゴオオオォォォォォォォォオオオオオ……………
「ウオオオォォォォオオオ!!!!!!」
朝倉も負けじと声を発しながら踏み込んだ足に力を注ぎ、全身でボールに向かって来た。
フォォォォオオオン!!
カッ!!!
バキィィィィィィイイイイ!!!!
ドゴオオオオォォォォォォォォオオオオオン!!!!!
もの凄い音と共に何かがオレの耳元を抜けて行った。
オレは振り返る。
なんと、飛んで行ったのはバットの上部だったのだ。
センター手前まで、それもノーバウンドでヤツは、朝倉は飛ばしたのだ。
聖は聖でミットから受ける凄まじい反動に耐え切れず、後ろに転んでしまっていたが、流石はキャッチャー、ボールだけは決して離すものかといった具合にしっかりと収まっていた。
「ス、ストライイイィィィイイイク!!バッターアウトオオオォォォォオオオ!!!!」
高々と主審が叫び、七回表が終わった。
それから八回裏。
オレの打席から始まるこの回が勝負。
(……やっとここまで来たんだ、絶対に負けるわけにはいかない!)
もう朝倉には打席は回って来ない。
表のクリーンアップもピシャリと三人で抑えた。
一点、一点だけで良いんだ。
(…チーム全員がオレを四番として選んでくれたんだ。ここで期待に応えなくて何時応える!?……ここで、この回で、オレが決めるしかない!!)
全精神を集中させて打席に入る。
目を瞑ったまま、深呼吸の後ゆっくりと目を開き朝倉を見て、目線で準備は出来たと伝える。
「……ここで打たれるわけにはいかない!現役の意地として!!エースの意地として!!!」
振りかぶって放たれた球はまた宙に浮いたまま止まって見えるあの球だった。
「…………………………ここ!!」
オレはブンと勢い良くバットを振り切った。
が、結果は鈍い金属音と共にゆっくり後ろに転がって行くだけだった。
「……ちぃ、まだタイミングが早いって言うのか?」
(……当てただと!?この球を試合中に当てられたなんて僕の記憶の中にはに無いぞ!?)
バットを構え直し、精神を持続させるために負けられないという気持ちを確かめ、バットを見た。
朝倉も自身の力を信じるためか、ボールを見ていた。
そして、第二投目。
(……今度はストレート系か!?どっちに曲がる!?)
ギイイィィィィイイイン!!
結果は引っ張り過ぎのファール。
「…内角に食い込んで来たか。」
沈んだり、逃げたりとファストボール系の球を駆使しつつ、止まって見える球やナックルで三振を取ろうとしてくるが、ギリギリのところで必死に食らいつく。
(……くそ!本当に現代の魔球ばかりを抛ってきやがる!!)
気が付けば十五球目がファールになっていた。
「「……はぁはぁ」」
互いにもう息も絶え絶えで限界に近かった。
「……はぁはぁ、これで…いい加減…三振に…してやるよ…。」
「……はぁはぁ、さ…三振だけは…どんな事があっても…しねーよ…。」
朝倉が力一杯に第十六球目を放つ。
両足に踏み込む力が無い。
(……くそ、ここで終わりか!?)
その時だった。
「智哉さん!!打ってください!!!!」
オレの中にある何かが覚醒した。
「うおおおぉぉぉぉぉおおおおお!!!」
カキイイイイィィィィィィイイイイイイン!!!!
……オレは無意識の内にダイヤモンドを回っていた。
捕球音が聞こえなかった。
もしや外野を抜けたのか?
ならば、タッチアウトになったのか?
だがオレの体にタッチされた感覚が無い。
そのままホームベースに倒れ込むと同時に、主審の声が僅かに聞こえた、ホームインと。
それからオレがフェイトに起こされたのは少し後、九回最後のマウンドに上がらなければならない時だった。
だが、この時は実はオレの意思で起きたのでは無いと言う事が後に判った。
「……あれ、試合は?」
意識が戻った事に気付いたオレは率直な疑問を何故か目の前で着替えているチームメイト達に投げ掛けた。
するとどうだろう?
全員声を揃えて、はぁ?大丈夫か、お前?と言って来るのだ。
大丈夫な訳ないだろう、先程漸く意識が回復したのだから。
そんな事を全員に呆れながら言うと、皆が皆顔を合わせだし、もの凄い?マークを浮かべているではないか。
そんな中、聖が代表して、
「……お前、まさか意識が無い状態で九回を投げていたのか!?」
そんな事を聞いて来る。
「お前を少しでも休ませるために、五番、六番が粘りに粘ってたんだ。そして、チェンジのコールが掛かっても一向に目を覚まさないから、フェイトちゃんが必死に叫び続けて漸く起きたんだぞ!?……本当に覚えていないのか?」
「……あぁ、何となくフェイトの声が聞こえていただけでオレは、オレの意識はそのままだった。」
そうか、フェイトには凄く心配をかけてしまった。
後で埋め合わせをしてあげないと、と考える事が出来るまでに意識が回復していた。
学校の昇降口を出ると、校門の前にはフェイトが待っていた。
「……あ、智哉さん。試合、お疲れ様でした。」
そう言いながら駆け寄って来る。
「ただいま、フェイト。試合の応援ありがとう。フェイトが居なかったら多分負けてたよ。」
微笑みながらフェイトの頭を優しく撫でる。
「……智哉さんったら、九回に替わっても全然起きてくれなかったから、凄く心配したんですよ?」
頭を撫でられているフェイトは、普段は笑顔なのだが、今回ばかりは暗いままだった。
少々心配を掛け過ぎてしまったようだ。
「…ハハ、ごめんごめん。今度ちゃんと埋め合わせしてあげるから、許してくれるかい?」
「……もぅ、直ぐそうやってご機嫌取ろうとするんですからぁ。今回だけですからぁ。」
そう言って抱き付いて来るフェイト。
そんな可愛らしいオレの恋人をヒョイと持ち上げ、お姫様抱っこをした。
「ひゃあ!……もう、智哉さんったらぁ。」
夕日を浴びているからか、何時もよりも更に顔を紅く綺麗に染めるフェイトを抱えながら歩き出し帰宅したのだった。
~後書き~
は~い、やっと第9話書き終わりました~w
長かった、いや本当にw
只それに尽きます、はい。
次からは漸く本編に戻れる、かな?w
名も無き世界へようこそ。 ここには主に日常の日記、野球関連の事柄、アニメの感想を載せています。 また、最近二次創作SSも書き始めました。 良かったら読んでいってくださいw 読んだらコメント書いてくれるとメチャ嬉しいですw 宜しくお願いしますwm(_ _)m
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